なんぽ歯科だより
2020.08.27狭窄した歯並びに対する治療法は?② ~ 「外科的口蓋急速拡大法(SARPE)」~
著しい叢生(デコボコの歯並び)を改善する方法の一つに、顎整形力を利用した上顎の拡大、いわゆる「急速拡大」という方法があります。
これは成長期の人における上顎の幅の不足を改善する方法として一般的ですが、成長期を過ぎた(骨格的に成熟した)人は適応になりません。
そのような人に対しては、外科処置と急速拡大装置を併用して行う方法、いわゆる「外科的口蓋急速拡大法(Surgically assisted rapid paratal expansion: SARPE)」という方法があります。
SARPEの適応症
SARPEを適用する場合は下記の通りです。
- 1. 上顎の歯列弓を拡大する必要がある場合
- 2. 外科手術によるリスクを避ける必要がある場合
- 3. 抜歯が適応ではないときのスペースの確保を行う場合
- 4. 口蓋裂による上顎の発育不全の改善を行う場合
- 5.「急速拡大法」にて対応できない場合
適応年齢
急速拡大とSARPEの適応年齢については、数多く報告されています。
一般的には、
急速拡大は6歳から12歳まで
SARPEは13歳から35歳まで
とされており、急速拡大は年齢が高いほど安定性が悪いと言われています。
拡大量による適応の違い
通常、必要な拡大量が5mm以内なら矯正単独での治療を行いますが、5mm以上であればSARPEが必要となります。
また、外科的に上顎を拡大する方法として、「セグメンタルオステオトミー(外科手術による歯槽骨の移動)」という方法もありますが、セグメンタルオステオトミーは8mm以上の拡大を行った場合は予後が悪いという報告があります。
SARPEを行うかどうかの診断は上顎の幅の不足量の測定を行い、臨床的な評価、歯の模型分析、咬合状態の測定、レントゲンなどを使用し診断します。
SARPEにて使用する装置
矯正による歯の移動は、歯肉や歯槽骨に影響があります。そのため、歯周組織が急速拡大の圧に耐える力があるかを見極めることは不可欠です。使用する矯正装置の選択は、歯周組織の状態に影響を及ぼします。
SARPEを行う患者様には主に固定式(付けたまま)の装置を使用します。
矯正装置の調整
矯正装置は、1日に1mmの拡大負荷により長管骨の仮骨形成が促されます。
骨の縫合部と上顎切歯の間の部位の骨に切れ目を入れますので、あらかじめ左右中切歯の歯根の間に切れ目を入れられるだけの隙間を確保しておかなければなりません。
もし隙間が十分でない場合、事前に矯正移動により歯間を広げておく必要があります。
SARPE後の保定・安定・後戻り
ほとんどの学術報告において、SARPEの方が急速拡大よりも安定すると述べています。
SARPEの後戻りの割合は5~25%と言われており、この割合は急速拡大に比べて低いです(急速拡大は63%の割合で後戻りすると言われています)。
SARPEのリスク・限界・合併症
装置が原因で生じるものが多く、装置による口蓋組織の挟み込み、装置の脱離、スクリューの破損などが挙げられ、口蓋組織の炎症は頻繁に起こります。
周囲組織の壊死の発生率は、1.8%ほどと少ないですが、5%は口蓋粘膜に潰瘍が出来ると言われています。
※実際に処置を行う場合は、口腔外科と連携して治療を進めます。
近年の矯正の治療方法は、矯正装置の選択だけでなく、部分的な外科処置を組み合わせるなど多岐にわたります。
患者様お一人お一人の症状に合わせて、どの治療方法を選択するかが治療期間や治療後の安定性、歯周組織への影響へとつながります。